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とっておきの宅配便 引越③(メルセデスベンツにパンチパーマにサングラス)

荷物を積んで引き返して来る道中に不安がつきまとう。又別のパンチパーマがつけてくるのではなかろうかとたびたびバックミラーで確かめる。でも此の度は尾行されることなく社宅の構内に無事入る。社長がニッコ、ニッコしながら駐車中の白いベンツから出て来る。そして今回は自分が三階から上をやるので、どんどん中継点まで荷物をもってこいと指示をだす。社長命令であるからにして、さからう訳にもゆかない。

それに深く考えなければ大助かりである。しかし正体不明、謎のオジサマにあやつられている、常五郎にとっては、そう夢遊病の世界であった。

ところがスバルサンバートライの荷台から三階の中継点へ荷物を半分ばかり揚げた時である。五階から降りてくるはずの社長がしばらく経っても降りて来ない。そこで常五郎なに気なく手頃の荷物をひとつ持って、のこのこ五階へ上っていった。

その時であった。開いているドアの内より社長の声が、

「どうも無理なお願をしてすいません。
たすかりました。ありがとうございました。」と、

「いいえ構いませんのよ、いずれどこかにお願いする積りでしたから。」

つづいて娘さんが楽しそうに答えているではないか。なんのことやら、なんとなくおかしな具合である。主役である筈の、こちとら常五郎三世様が、顔を出していいものやら、悪いものやら。ケッタイなムードと一人悩んでいるところへ、ひょいと社長がドアから出て来た。

まゆを左右の限界いっぱいに引き下げて、目はシワの中にかくれてしまい、顔面をゆるめたいだけゆるませて、大そうなごきげんである。ぼんやりしている常五郎の鼻っ先で突然社長が、「社長!!」と叫んだ。これには常五郎三世びっくりして、不覚にもとび上がったのである。

いつの間にか社長と思い込んでいたオジサマからふいに社長呼ばわりされたのであるから。

「おかげ様で商売になりました。契約してくれるそうです。」

「ケイヤク、それなんのこと、お宅さん、一体なに屋さんなの。」

これまでの、はてしない階段ののぼりくだり、永い道り荷物に加えて社長命令、思い返せばメルセデスにパンチパーマにサングラス。(おたくなに屋さん?)やっとのことで喉仏につかえていた一言が堰を切った。

「おっとっと、これはどうも、まだご挨拶申し上げてなかったかな。」

なにを今更、申し上げてなかったかな、とはしらじらしい。

「これはこれは申し遅れまして、わたくし新聞販売者のものでございます。お仕事中、お邪魔しました、すいませんでした。」

「ヒエーッ お宅新聞屋さんなの、そうですか、新聞屋さん。ヘエーッそれは、それは、重いもの手伝わせてごめんなさい、助かりました。」

この新聞屋さん最後の荷物まで、気持よく手伝ってくれたことは言うまでもない。

搬入した荷物を整理している常五郎三世の横で神妙な顔付で新聞購読の申込の契約書にはんこをもらっているパンチパーマの新聞屋さんが、とてもすばらしい、やり手のセールスマンに見えてきた。

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