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とっておきの宅配便 引越①(白いベンツとパンチパーマ)

おそい、昼食を済ませて、ターミナルへ戻ると引越し荷物が常五郎の帰りを待っていた。
社員寮向けの(小さな引越し)と称する荷物だ。かさばるものは、赤い自転車、小さな冷蔵庫、小さな整理ダンスにテーブル、小型のテレビといかにも独身女性を思わせる可愛い造りのものばかり、だが小物を入れると二回に分けての配達になる。
すでに、電話で引越し時間は打合せ済みである。 送り状によるとアパートの五階の中程、そこは男子禁制の、そう、あの女子寮なのである。力強い応援団の期待は皆無と決めてかからねばならないであろう。
一汗かくぞと覚悟してスタートする。スタートから10分、社員寮の構内に入る、階段に近い入り口のひとつに、スバルサンバートライをぎりぎりに寄せる、反対駐車である。
その時、ふと後方に気配を感じ、何気なくドアミラーをのぞくと白のメルセデス、あのベンツがサンバートライの後方に停車したところであった。ピッカピッカの新車である、くどいようだが間違いなくベンツであるのだ。
むこうさんが先に車から出た、なにやら常五郎が車から出てくるのを待っている風がある。
そのいでたちや頭はおきまりのパンチパーマ、白の上下は、ゴルフスタイル、足下は白のメッシュと白づくめ、とどめは黒のサングラス、物はご存知レィバンシューター。一分のスキもないサングラススタイルでビシッときめている。

常五郎がドアの開閉をためらいたくなるような、いやなムードが車外をただよう。
何となく伝票の整理を装って時間を稼ぐ、バックミラーから目をはなしたその時、コツコツとウィンドをノックする音。

(なんやねん)(なんじゃい)(なんか用か)(なんだ)などの気合の入った啖呵を用意していたが、ふいをつかれて、勢いよく口をついて出たのは(ハーァ)のかぼそい、なんとも間の抜けた一言。
バックミラーに映ったそれらしき いっさいに恐怖心をいただきスバルサンバートライの座席に身を硬直させて待ち受ける肝っ玉の太い常五郎の耳元へドスのきいた・・・・・
と思いきや、なんとも蚊の鳴くようなささやきが遠慮勝ちに届いて来たではないか。

「スイマセン、オヒッコシデスカ」
このとたんに常五郎三世の硬直はたちまち弛緩した。強精ドリンク剤をダースで一気飲みしたこのように元気回復、ドアを押し開き、身のこなしも軽やかにスバルサンバートライの車外へおどり出る。そしてパンチパーマを無視するかのように、スッーと立っていたのである。
殺気が流れるキンパクした対決・・・・・・その時、パンチパーマが、またもや遠慮勝に口をきいた。
「あのー引越し荷物はこのアパートの・・・・・・」
「えー五階のようですけどーなにか」
常五郎の気迫にパンチパーマはタジタジと後退しながらささやきつづける。
「五階ですか、この荷物全部」
「そう これ全部、他にもう一車あるけど、お宅さんなにか、私になにか・・・・・」
体勢は完全に優位。常五郎はつつげんどんに言い放って、アパートの方を目とアゴでしゃくった。
「いえ、いえそんな、あのーちょっと。」
パンチパーマは急にそわそわ落ち着かなくなった。気がつくといつの間にやら、レィバン・シューターが外されているではないか。
知らず知らずにこちらの態度がでかくなっていたのもこのせいだろう。
このオジサン、サングラスの印象がキビシすぎた、それだけに反動的にその落差はきわめて大きくマイナスに作用してしまったようだ。
人の善さそうなゆるんだ顔つきがサングラスの分だけ損して、まるでしまらなく見える。
まあそんなことはどちらでもよいが、こちらは仕事、仕事と荷下ろしのドアを切るため、サンバートライの後部に回る。
なにを考えているのかオジサンも常五郎にぴったりとよりそうようにくっついてくる。
宅配便にとって高層アパートの上階はしんどい。こんなときに宅配便にはとんと無関係な建築法なる法律用語が頭をかすめる。
それは建築法で定められているとかの、エレベーターの設置基準のことである。
これは六階建て以上の建物に限り、エレベーターの取り付けを義務づけしたものであって、五階建ての建築物にはエレベーターの設置義務はないのである。
なんとも恨めしい設置基準ではないか。ひと呼吸おいて目を寮の階上に向ける。
登山計画を立てるのである。中継点はいつものように三階に設置する体力のあるうちに大きな荷物や重量物を三階の中継点まで上げることにするとしよう。

(次回につづく)

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