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とっておきの宅配便 引越②(メルセデスにパンチパーマにサングラス)

常五郎三世 女子寮の五階へパンチパーマのオジサンを無視してこれからカツギ上げる荷物に目を移した。深呼吸一番、気力充実、ヤルゾー・・・
その時である。
「あのーこの五階は単身者用ですよね。」
このォーさんざん人ををおどしやがって、その上仕事の邪魔までしようとする。
迷惑千万、自然に言葉もとがってくる。
「お宅さん・・・・・こちらのご関係。」
我ながら邪険な態度である。
「どうも、どうも、おじゃまして、すいません。これを持ちましょう。」
オジサン 何を思ったか、荷台の一番手前にあったテーブルをかかえている。
こんどは常五郎が大いにあわてる。
「ちょっと、ちょっと、あんた、ちょっと。」
もうすでに、オジサンの足は階段にかかっているではないか!
常五郎、とっさに冷蔵庫をひっかかえてあとを追う。
急な階段である。そもそもこの冷蔵庫は今回の登山計画のポイントになっていたものだ。
いずれにしても最初に搬入する積りはさらさらなかったが、それが弾みで、ついつい冷蔵庫を抱きかかえてしまったのである。
二階フロアーまで来ると息が切れる。
ヤローいらんお世話しやがって、と思ったとたん、ふと前が軽くなった。
「大丈夫ですか、半分もちましょう。」
「すいませんねえー」
ガラリと態度が変わる自分がアサマシーィ。
タスカッター両腕のくい込みがスーッと引く。うえを見上げると、オジサンが長身を折り曲げて、冷蔵庫の先端を持ち上げているところである。こうなるともう中継点の必要ない、一気に五階に向けて登頂を敢行だ。
三階のフロアーに先きほどのテーブルが置いてある。三階を中継点にしているところなんで、ひょっとするとこのオジサン引越屋のベテランではなかろうか。
勝手なもので親近感までわいて来た。
五階で一息入れて顔を見合わせた。
「すいませんねえ、重いものを、スーツ汚れますよ。」
「いやいや、かまいません!安物ですから。」
「それより何号室ですか。」
「あーァそうそう五◯四号室です。」
小柄な娘さんの可愛いい顔がのぞく。箸より重いものは無理の様だ。臨時応援団のオジサマに感謝しようと振り返って見ると姿がない。
三階フロアーにとって返したようである。
案の定、こちらが室内に上り込んで冷蔵庫を据えつけている間にテーブルが来た。
オジサマは、それをドアの前に置くと、すぐ出ていってしまった。
「今の方、お知り合いですか、」
常五郎がたずねると、娘さんは不思議そうに かぶりを振った。
謎めいた目が常五郎を見つめる。
察するに、今の今まで娘さんには、前カケ、ジーパンの常五郎三世は運送店の従業員と、いったところで、白の上下のスーツのオジサマは、さしずめ社長さんと、見えていたにちがいない。
やつは、何者だ。不安がつのり階段をかけ下りる。ところがオドロキ。三階の中継点にかなりの荷物が揚がって来ているではないか。
ぼやぼやせずに どんどん上へ持っていけと言うことらしい。いわずもがなの社長命令であった。
仕方がないので、それをどんどん五階の室内へ運び込む。
そのうち積込んだ荷物の数と室内へ納めた荷物の数が、送り状一車分と一致した。
当然はじめに計算していた時間と労力、疲労度は半分以下で一車かたづいたことになる。
娘さんに残りの荷物の搬入を説明しておいて、五階の通路に出た。ふと下を見た。
社長がのんびり上を見上げている、そして常五郎に気づき手で大きな丸を作った。常五郎三世もあわてて、丸を作って階下へ急いだ。
「どうもありがとうございました、ご迷惑かけてしまって、ほんとうに助かりました。」
「とんでもない、さあさあ、もう一回分残っているんでしょう、待っときましょう、早いとこ、どうぞ。」
こうサワヤカに言われたのでは、お宅さん 何者、なんて冷たくきり出せたふんいきではない。
どうも、どうもと、どうにもしまらないまま、素直に社長命令に従って残りの荷物が待つホームへととって返した、常五郎三世であった。

つづく

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